最近、インターネットやSNSを使っている人はおそらく全員が「無料マンガアプリの広告」を目にしたことがあるだろう。おっと、見たことが無いとは言わせねぇぜ。

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こういうやつね。


 僕は少し前まで「こういう広告」のことを、あまり好ましく思っていなかった。実際、「漫画 広告」とかで検索するとサジェストに「不快」「気持ち悪い」なんて出てきたりするあたり、同じように思っている人はそれなりにいるのだろう。

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 なぜみんな「あの広告」を敵視してしまうのか。その理由としては、単に邪魔だから、というのもあるのだろうが、どちらかというとやはり「つまんなそう」というのもあるんじゃないか。

 この辺はあくまでも個人の価値観によるが、誤解を恐れずに白状すると、僕もあのテの広告を目にするたびに「俺の好みじゃねえな」「これのファン層ってどーゆー人たちなんだろう」などという感想を抱いてしまうことがよくある。


 だが、僕の弟はこんなことを言っていた。

「いや、実際に読んだら面白かったよ」

彼は『100万の命の上に僕は立っている』『出会って五秒でバトル』の二作品を例にあげ、

「あれは広告のフォーマットのせいでつまんなく見えるだけで、問題があるのは広告のフォーマットのほうだ」

と言うのだ。

「あの広告のロジックだとどんな漫画でも「なんとなくつまんなそう」になっちゃうんだよ。『七つの大罪』ですら餌食にされてるんだよ」


 ならば、だ。


 本当に「あの広告」のフォーマットを適用すればどんな名作漫画でも「つまんなそう」になってしまうのか?

 そもそも、なぜ我々は「あの広告」を「つまんなそう」と感じてしまうのか?


 実際に広告のフォーマットを研究し、それっぽいのを作って実験してみた結果がこれだ。




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「あの広告」風の『AKIRA』。「パシリだった〜」が1ページ目。



 どうだ! 


 「つまんなそう」かどうかは各々の判断に任せるしかないが、少なくとも「あの広告」が持つ雰囲気はそこそこ再現できているのではないだろうか。実際、うちの家族にはバカウケだった。 

 そして、自分で作ってみて分かったのだが、かなり難しい。 今まであの広告をバカにしていたことをちょっとだけ反省した。

 まず、『AKIRA』という作品からどの要素を抽出するかけっこう悩まされる。広告は大抵の場合3〜5コマ程度で構成されるため(たまにやたら長いのもあるけど)、入れられる情報は割と少ないのだ。

 とりあえず、広告の漫画にはいわゆる「スカッとジャパン」的な「成り上がりモノ」や「成敗モノ」が多いイメージがあったので(※1)、「不良グループの下っ端だった鉄雄が超能力を手に入れ、金田たちに反旗を翻す」という主に単行本の第一巻から第二巻あたりまでのシーンでまとめた。

※1・・・・・・「小説家になろう」でも「パーティーで村八分にされ追放される→他所で成功する→俺の才能に気付いてももう遅い!」みたいなのが流行っているらしいので、これはマンガに限らずエンタメ界隈全体における傾向なのかもしれない。



 というわけで、以下に「あの広告」風のGIFを作るための具体的なノウハウを、実際に作っている様子を見せながら説明していこう。
 
 (iOS向けの説明になります)


 題材にはジョージ秋山先生の不朽の名作『銭ゲバ』をチョイスした。僕自身、中学生の頃にこのマンガを読んで価値観や人生観に大きな影響を受けているが、それよりなにより『銭ゲバ』のストーリーが「あの広告」と親和性が高そうだったので選んでみた次第だ。

 まず必要なシーンをピックアップして画像を用意したら、この「phonto」というアプリを立ち上げる。

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これ。無い場合はインストールしよう。

 
 写真に文字を入れるだけならデフォルトの写真アプリでも問題はないが、凝ったフォントなどを使おうとするとやはり専用の編集アプリがあったほうがいい。


 最初の画面の下部にあるカメラのマークをタップして画像を選択する。

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 そして、表示された画像をもう一度タップすると、

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「文字を追加」という項目が出てくるので、それをタップ。


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ポチポチと入力していこう。

いい具合の文章ができたら「完了」をタップ。

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文章をタップするとメニューが表示されるので、まずは「スタイル」を選択する。

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この項目ではテロップの色や細かい仕様を調整できるので、さっそく文字の色を変える。今回はシリアスな作品なので赤で。

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次に、「ストローク」の項目で文字に白いフチ取りを加える。フチの幅はお好みで。


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今度は、画面上部のスイッチ(?)を「色」から「スタイル」に切り替える。この項目では、文字にいろいろな影をつけることができるぞ。いまは右端のAaを選んでおこう。文字の周り全体をぼんやりと囲むタイプの影だ。この影にも色をつけるとなかなかいい感じになる。終わったら右上の「完了」をタップ。


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 文字のサイズや位置を調整したら・・・・・・


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 1ページ目が完成。

 基本の操作は以上。ここからはテロップの具体的な内容についてレクチャーしていく。



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 2ページ目はこちらのシーン。

まず考えるべきなのは、テロップの配置だ。

1ページ目は横だったので、今度は縦書きにしてみる。

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文字を追加するとき、「横書き・縦書き」の部分をタップすることで切り替え可能。



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 こうなった。

 このページで重要なポイントはふたつ

 まず、当然だが文字はなるべくキャラクターの顔やフキダシと被らないようにすること。そういう意味でも、このシーンには縦書きが向いている。


 もうひとつの肝心なポイントがどこだかわかるだろうか?

 シンキングタイムは無制限なので、答えが思いついたらスクロールしてほしい。もちろん、とくに考えずすぐに読んじゃってもいい。















 正解は「キャラクターの心の声」をひとつは入れておくこと、だ。
 
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実例。


 1ページ目のテロップが「母を亡くした少年は・・・」と状況の説明であるのに対し、2ページ目のそれは「絶対に幸せになってやる!」という主人公の決意表明になっている。

 これをやるだけで「あの広告」にグッと近づくので、今日はこれだけでも覚えておいてほしい。ここ期末テストにでるからなー。


 続いて3ページ目。

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「銭のためならなんでもするズラ」という有名なセリフにあわせて、それっぽいテロップで不穏な空気を煽っていく。広告のマンガはどれもこれも不穏がちだからだ。

 ちなみに、この「願いはやがて狂気へ・・・」というフレーズを考えるだけで15分くらい悩んだ。コマの空きスペースにピッタリ収めなければならず、さらにその制約のなかでなるべくカッコいい単語を選んで組み立てる必要があり、けっこう語彙力や文章力を問われる。
 なお、他に候補に挙がっていたフレーズは「狂気か⁉︎ 真理か⁉︎」や「無垢な願いは暴走する・・・」とかだったんだが、どうだろうか。ちょっとカッコつけすぎか?


 4ページ目。

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 思い切ってテロップは無し。詳しくは後で説明する。

実際の広告でも、テロップを被せないことは割とよくある。

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実例たち。


 そしてラスト、5ページ目。

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 〆は強めのフレーズで。「人間はみんな銭ゲバだ!」と断言するシーンに、さらに「人間の本質は欲望だ‼︎」と断言するフレーズを重ねる。断言の二乗だ。



 そして、今度は五枚の画像を繋ぎ合わせてひとつのGIFアニメにする。

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この「ImgPlay」のアプリを使って・・・・・・


合体‼︎ 


完成した「広告」がこれ。

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 最初に作った『AKIRA』のやつは画像が切り替わるのが遅すぎる気がしたので、今度はちょっと早くしてみた。 

 これ、自分で言うのもなんだがだいぶ上手くまとまったと思う。
 とくに、4ページ目はあえてテロップを入れないことで「わたししあわせよ」のセリフを強調し、その次のシーンとの落差をより際立たせる効果を狙った。


 とにかく、全体の構造として「起承転結」の流りれを作りつつ、さらにその先の展開を匂わせることを意識している。

 そして、テロップのほうでも「母と死別→銭ゲバに目覚める→お金に執着するあまり、自身に向けられた「無償の愛」を信じられなくなってしまう」という大まかな展開を説明しているので、たとえセリフを読まなくとも理解しやすい。


 そう、あの「無料マンガアプリの広告たち」は、かなりの技巧を凝らし、知恵と気合とを込めて作られているのだ。実際、あれらの広告は、それだけを見せられてもどんな作品なのかちゃんと伝わるように編集されている。よくできているのだ。



 ではなぜ、我々はあの広告に対してネガティブな感情を抱いてしまうのか?

 おそらくその原因は、作品の内容でも、広告のフォーマットでもなく、我々自身の側にあるのではないだろうか。

 僕自身、アプリや電子書籍でマンガを読むことはほとんど無く、そもそもマンガに限らず「書籍はやっぱ紙じゃなきゃ」と考えている。
 また、よく読んでいるマンガのジャンルもそこそこ偏っている。僕自身が保守的な人間だったのである。
 

 おそらく、あの広告を忌み嫌っている人たちのなかには「WEBコミック」や「なろう系ファンタジー」や「悪口系レディコミ」などに対する偏見や苦手意識があるのではないか。
 

 インターネットとはつまるところ「現代における魔女の手鏡」である、というのが僕の持論だ。

 魔女が手鏡に向かって「この世で最も美しい女性は誰か」と尋ねたとき、手鏡は魔女が最も忌み嫌うタイプの女性像を提示した。

 それと同じで、インターネットは使い手の負の感情を喚起するような情報を提示してくる、という性質をある程度持ち合わせてしまっているのだ。

 つまり、ああいった「不愉快な」広告には我々自身の(無)意識下にある悪意もいくらか反映されている、といえるかもしれない。

 アタシゃ近頃の若造どもはもっと自省を覚えるべきだと思うね。





 なーんてムリヤリ寓話的なオチをつけてみたところで、「ネットの広告がウザい」という問題はなにひとつ解決されていない。とくに、アダルト動画サイトの突然ワープで現れたり分身したりして再生ボタンを遮ってくる広告はマジで滅んでほしい。悪質すぎるよアレは。やつらにくらべりゃ、めちゃコミックの広告なんか全然かわいいほうだろう。いいかげん、許してやってもいいんじゃないだろうか。